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じっとしていられない不快感「アカシジア」とは?原因と対処法
2025.06.10
心療内科について
「そわそわして落ち着かない」「じっとしていられない」といった経験は誰にでもあるかもしれませんが、その不快感が常時続き、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。もし、そのような症状が薬の服用中に現れた場合、「アカシジア」の可能性があります。アカシジアは、そのつらい症状から「静座不能症」とも訳される、薬の副作用として知られる状態です。
本コラムでは、アカシジアとは何か、その症状や原因、そして適切な対処法や予防策について詳しく解説します。この症状に悩む方や、その周囲で支える方々にとって、理解の一助となれば幸いです。
アカシジアとは?特徴的な症状
アカシジアは、ギリシャ語で「座っていられない」という意味に由来する言葉で、その名の通り、じっとしていることが非常に困難になる状態を指します。体や足のそわそわ感、むずむず感、時には灼熱感(ほてり)を伴うことが特徴です。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 体や足のそわそわ感、むずむず感、灼熱感: 内側からこみ上げてくるような不快感があり、じっとしていることが耐え難くなります。
- 座ったままでいられない: 椅子に座っていてもすぐに立ち上がったり、歩き回ったりしたくなります。
じっとしていられず、脚を小刻みに動かす: 足を貧乏ゆすりのように動かしたり、常に体勢を変えたりすることが多くなります。 - 姿勢を頻繁に変えたくなる: 同じ姿勢を保つことが苦痛に感じられ、落ち着きなく姿勢を変え続けます。
- 歩き回りたくなる: 室内を意味もなく歩き回ったり、外を徘徊したりする行動が見られます。
これらの症状は、患者さん自身の強い苦痛を伴い、不眠や精神的な焦燥感、さらには攻撃性や自殺念慮につながる可能性も指摘されています。周囲から見ると「落ち着きがない」「わがまま」と誤解されることもありますが、これは本人の意思とは関係なく生じる不快な症状なのです。
アカシジアの主な原因:薬の副作用に注目
アカシジアのほとんどは、特定の薬剤の副作用によって引き起こされます。特に、精神科で処方される「抗精神病薬」が主な原因薬として知られています。抗精神病薬は、統合失調症や双極性障害などの治療に用いられ、脳内の神経伝達物質であるドパミンの働きを調整することで効果を発揮します。
しかし、このドパミンに対する作用が過剰になると、アカシジアなどの錐体外路症状(運動に関する副作用)を引き起こすことがあります。
その他にも、以下のような薬剤がアカシジアの原因となることがあります。
- 抗うつ薬: 特にセロトニン系の薬剤で報告されています。
- 一部の胃腸薬や制吐薬: 吐き気止めとして用いられる薬剤の中にも、ドパミン受容体遮断作用を持つものがあり、注意が必要です。
- 抗高血圧薬、抗アレルギー薬、抗がん剤: ごく稀にこれらの薬剤でもアカシジアが報告されることがあります。
アカシジアの発症には、薬剤の種類や量、個人の体質などが関与していると考えられています。薬剤の開始時や増量時、あるいは中止時や切り替え時にも症状が現れることがあります。また、鉄欠乏性貧血や糖尿病などもアカシジアの危険因子となる可能性が指摘されています。
アカシジアの診断と治療:早期発見と適切な対応が重要
アカシジアの診断は、主に患者さんの自覚症状と、医師による観察に基づいて行われます。患者さんの訴える「じっとしていられない」「そわそわする」といった感覚や、実際に落ち着きなく動いている様子から診断が下されます。
治療の原則は、原因となっている薬剤の特定と調整です。
薬剤の調整
- 原因薬剤の減量または中止: 可能であれば、アカシジアを引き起こしていると考えられる薬剤の量を減らすか、服用を中止します。これは医師の判断のもと、慎重に進める必要があります。
- 原因薬剤の変更: 症状が改善しない場合や、薬剤の中止が難しい場合は、アカシジアのリスクが低い別の薬剤への変更を検討します。特に、定型抗精神病薬から非定型抗精神病薬への切り替えは、アカシジア発症のリスクを減らす有効な手段とされています。
アカシジア治療薬の追加投与
薬剤の調整だけでは症状が改善しない場合、アカシジアの症状を和らげるための薬剤が追加で処方されることがあります。
- β遮断薬: プロプラノロールなどが第一選択薬とされることが多く、特に脂溶性のβ遮断薬は中枢神経系への移行性が高く、有効性が期待されます。
- 抗コリン薬: アカシジアの治療に用いられることがありますが、遅発性アカシジアには無効な場合や、逆に症状を悪化させる可能性もあるため、注意が必要です。特に高齢者では、認知機能への影響も考慮する必要があります。
- ベンゾジアゼピン系薬剤: ジアゼパムやクロナゼパムなどが症状緩和に有効であるとされています。
- その他: クロニジン、アマンタジン、ミルタザピン、シプロヘプタジン、ミアンセリンなども、症状緩和に寄与する場合があります。
これらの治療薬は、症状の重症度や患者さんの状態に合わせて選択されます。
アカシジア発症時の対処法と家族のサポート
アカシジアの症状が現れた場合、患者さん自身やご家族が適切に対処することが大切です。
患者さん自身の対処法
- 医師・薬剤師への早期相談: 症状が出たら、すぐに主治医や薬剤師に相談しましょう。自己判断で薬の服用を中止したり、量を変更したりすることは危険です。
- 症状を具体的に伝える: 「そわそわする」「じっとしていられない」といった感覚だけでなく、「足がムズムズして眠れない」「歩き回らずにはいられない」など、具体的な症状やそれが生活に与える影響を詳しく伝えることが、適切な診断と治療につながります。
- 無理にじっとしない: 不快感を我慢してじっとすることは、かえって苦痛を増大させることがあります。軽い運動や、気がまぎれる作業(例:簡単な家事、読書など)を試みることで、一時的に症状が軽減される場合もあります。
- 安心できる環境を整える: 静かで落ち着ける環境で過ごすことで、精神的な負担を軽減できることがあります。
ご家族のサポート
- 症状の理解と共感: アカシジアは、本人の意思とは関係なく生じるつらい症状であることを理解し、共感的な態度で接することが重要です。「落ち着きがない」と責めるのではなく、「つらいね」と寄り添う姿勢が大切です。
- 早期発見と受診の促し: 家族が症状に気づいた場合は、早期に医療機関への受診を促しましょう。
医師との情報共有: 患者さんの症状や日常生活の様子について、医師に詳しく情報を提供することで、より的確な診断と治療に役立ちます。 - 規則正しい服薬のサポート: 医師から指示された通りに薬を服用できるようサポートしましょう。勝手に薬を止めたり減らしたりすることは、再発のリスクを高める可能性があります。
- 精神的な支え: アカシジアは患者さんにとって非常に不快な体験であり、精神的なサポートが不可欠です。不安や焦燥感を軽減できるよう、温かい声かけや見守りを心がけましょう。
アカシジアの予防と今後の展望
アカシジアの最も効果的な予防策は、薬剤誘発性の副作用であることから、その発現を未然に防ぐことにあります。
- 非定型抗精神病薬の選択: 抗精神病薬の投与が必要な場合、定型抗精神病薬に比べてアカシジアの発症リスクが低い非定型抗精神病薬を用いることが推奨されます。
- 最小有効量の使用: 治療効果を保ちつつ、可能な限り少ない量の薬を使用することで、副作用のリスクを低減します。
- 慎重な増量・減量: 薬の量を変更する際は、急激な変更を避け、医師の指示のもとで段階的に行うことが重要です。
アカシジアは、患者さんの生活の質を著しく低下させる可能性のある副作用です。しかし、早期に発見し、適切な治療を行うことで症状の改善が期待できます。医療従事者と患者さん、そしてご家族が連携し、アカシジアに対する正しい知識を持つことが、このつらい症状を乗り越えるための第一歩となります。
もし、ご自身や大切な人がアカシジアかもしれないと感じたら、一人で抱え込まず、専門の医療機関に相談してください。


